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プレシジョンメディシン:今いる場所、これから進む先にある未来
Newsweek Vantage's Precision Medicine: Creating Value for Everyone (ニューズウィークヴァンテージ:すべての人に価値をもたらすプレシジョンメディシン)では、バリューチェーンのそれぞれの領域で、組織がどのように変更を行っているのかについてのデータやインサイト、事例を紹介しています。プレシジョンメディシンが医療の概念を覆すと言われている今、このレポートは業界の将来に関わるすべての人々にとって必読の調査レポートです。ぜひご覧ください。
データ中心のテクノロジーが医薬品の新時代を作る基盤に
10年前、プレシジョンメディシンは単なるアイデアまたはフレーズでありコンセプトの域を脱するはありませんでした。このプレシジョンメディシンという言葉は、2011年に科学的な事柄について政府に助言する非政府機関の全米研究評議会(National Research Council以降NRC)によって作られました。同じ年にNRCは、個々の患者の臨床データを使用して「正確な」診断と治療を作成し、疾患の分子基盤に関する新興疾患研究をまとめる新しい「データネットワーク」を提唱するレポートを発行しました。報告書の著者の1人は、このプロジェクトをヨーロッパの大聖堂の建設になぞらえてこう言いました。「このプロジェクトは、完成するまでに数世代の時間が必要なほど重要であり大がかりである。」と。
この報告書が発行されて以来、プレシジョンメディシンという名の大聖堂の基礎構築は着々と進められてきました。個人および集団レベルの両方で、疾患の分子、ゲノム、マイクロバイオームおよび環境基盤に関する膨大なデータが収集されています。実際、臨床ノートや治験データ、検査結果、ゲノム研究、請求データ、FDAへの提出物、放射線画像、3Dイメージング、IoTを通じた生体認証センサーの読み取り値などを含む世界の医療データは、2013年から2020年までに5倍に成長すると予測されており、データ量は今や2314エクサバイトまでに達しました。 EMC Corporationと調査会社IDCのレポートによると、これはすべての既知の言語で書かれた人類が作った書物の46,280倍以上の分量になります。
一方、計算能力と機械学習技術の劇的な進歩により、このデータの意味のある分析が可能になり、随分と手頃な価格になりました。たとえば、ゲノム解析テクノロジーのコストは、2003年のヒトゲノムシーケンスあたり27億ドルから今日では1000ドル未満にまで低下し、より広く使用できるようになりました。また、メディデータとのパートナーシップによるニューズウィークによる最近の調査によると、バイオ医薬品および診断業界の幹部の間での最優先事項は、人工知能およびデータ管理を含むITシステムへの投資を増やすことです。
収集された膨大なデータと人工知能の進化により、仮説の構築、治験デザインの改善、臨床開発プログラムの成功、FDA承認率の向上など、医薬品開発が次々と強化されました。これらのイノベーションはすべて、医学研究に必要とされるコストと時間を削減し、先駆けとなるいくつかのプレシジョンメディシンが市場に登場しています。
2014年から2019年の過去5年間で、FDAの承認に占めるプレシジョンメディシンの割合は20%でした。その数は2018年には40%に上昇しています。FDAが承認した59の新規分子成分中25は個別化医療の薬剤であり、治療の効果が期待できる、または回避すべき患者の集団を特定する治療として定義されています。現在、米国の260を超える医薬品のラベルには、対象となる患者の遺伝情報が記載されています。
2018年から2019年の間、FDAは忙しく、幅広い利用範囲で33種類のAIベースのアルゴリズムを承認しました。これらアルゴリズムのなかでも最も早期のものは、スマートフォンテクノロジーを介して心房細動を検出できるもので、2014年にAliveCor社によって展開されました。最近では、2018年にAidoc社は脳出血を診断できるアルゴリズムに関してFDAの承認を受けました。 「FDAは、これらのアプリケーションに多くの臨床的厳密さがあることを見出している」とMedidata Solutionsの上級副社長であるArnaub Chatterjeeは述べています。
変化の波
ニューズウィークがメディデータと協力して実施した最近の調査によると、今日、バイオ医薬品および医療診断業界の経営幹部の84%は、プレシジョンメディシンが医薬品開発の新時代の到来を顕著に表していると指摘しています。確かに、プレシジョンメディシンへの移行は、薬の設計と供給プロセスのあらゆる側面に大きな影響を与えました。
たとえば、医薬品ビジネスの中で、最も革新や変化から遠い位置にある工程の1つと見なされることが多い医薬品製造では、万人に効く医薬品の大量生産からより幅広い種類の標的医薬品の小規模生産へと変わり、大きな革新を成し遂げています。たとえば、サイズと形状を調整し、カスタマイズされた速度で複数の薬物を放出できるように設計された3Dプリントされた錠剤が開発されています。また、研究者は、少なくとも1か月分の薬を提供し、感染症やその他の状態を検出できるワイヤレス制御の3Dプリントされたカプセル剤を開発しました。ウェアラブル端末およびインプラントと相互作用します。
工場自体のあり方も変化しています。従来は、中央の1つの場所にある大規模な製造工場から世界中に医薬品が出荷されていましたが、現在は治療を受ける実際の患者の近くに建設された、より小さく、モジュール式で柔軟に対応できる工場に取って代わられています。これは「次世代」またはインダストリー4.0テクノロジーと呼ばれることが多いと、ダッソー・システムズのライフサイエンス ビジネスコンサルタント ディレクターであるギヨーム・ケルブールは述べています。それは決して安価な投資ではありません。 「製薬会社が投資をすれば、競争上の優位性、市場の差別化、市場へのスピードを拡大します。」この標的を絞った小ロット生産の医薬品マーケットでもブロックバスターが生まれる可能性があります。収益が10億ドルに達するブロックバスターであれば、1か月~2か月の早期のマーケット投入は数百万ドルの追加収益を意味します。
医薬品の販売およびマーケティング戦略でも、患者に対する重要な転換を遂げています。標的市場と各薬剤のサブ集団が小さいということは、これらの個々の患者とその薬剤を処方する医師を見つけるために、より大きなコストと努力が必要になります。製薬会社は、患者リクルートメントの戦略を変更し、ソーシャルメディアやヘルスケア組織とのコラボレーションを強く進めるとともに、患者集団と市場に関する高品質のデータと分析の強化が必要になります。
医薬品販売チームは、個々の患者のデータを呼び出すことはできません(これはHIPPA規則に違反します)が、たとえば、特定の地域(郵便番号)に住んでいるアジア人の35歳から44歳までの女性で、特定の疾患にり患している医療プロファイルを見ることはできます。最終的には、製薬会社は患者との直接的な関係を強化し、臨床ケアをどのようにコーディネートして、「最高の治療」を提供できるか、密接に患者に関与するようなってきている、とChatterjeeは言います。 「彼らは、薬が何日後に患者に届いたかや、処方者が薬を注文した時間や日時を正確に知っており、補充が遅れた場合、患者に連絡します。」
プレシジョンメディシンの新時代では、患者は臨床試験の設計に意見を持つことができます。そして、その声が重要です。患者の視点は、満たされていないニーズを特定し、リスクと利益に関する考慮すべき事がらや、医薬品の忍容性、生活の質の測定など、最も重要なものを明らかにすることに役立ちます。
これは、人々が望みきちんと服用する治療法を開発することにより、最適な薬の摂取とより良い結果につながります。現在、研究に対するほとんどのプレシジョンメディシンのアプローチでは、患者グループが与えられた治療にどのように反応するかについての仮説を形成するために、患者の分子構造または疾患特性の遡及的分析の形をとっています。次のステップ、つまりターゲットを絞った試験を通じて前向きにこれらの仮説を検証することは、まだ初期段階です。
特に腫瘍学の試験は、より革新的なデザインに向かって進化しています。さまざまな種類の突然変異に基づいた非常に多くの癌サブタイプが存在するため、それぞれの小規模な試験を実施することはますます難しくなっています。ただし、マスタープロトコルの下で、複数の副次的な試験を同時に実行できます。たとえば、バスケット試験では、さまざまな種類の癌で見つかった特定の突然変異について薬剤をテストします。
価値に基づく医療(バリューベースドヘルスケア)の共通の目的は、より費用対効果の高い方法でより良いヘルスアウトカムを達成することです。プレシジョンメディシンは、より的を絞った介入によりヘルスアウトカムを改善し、予防措置により費用を削減し、効果のない検査と治療を減らすことにより、患者、医療提供者、支払者にこの約束を果たすことができます。また一方で、医薬品および診断薬の開発者のビジネス目標をさまざまな方法で達成することができます。
しかし、これらのすべての開発は有益であると同時に、医薬品開発プロセスに複雑さの新たな層を追加していますが、業界はまだその全容の理解の途中にいます。 ケルブール氏は言います。(それでも)「戻るという選択肢はありません。」
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この記事は2019年10月30日にGeeks Talk Clinicalでの英文投稿の抄訳となります。原文はこちらをご参照ください。