【イベントレポート】分散型臨床試験(DCT)ワークショップの開催報告
2024年10月25日、東京都内において一般社団法人ピーペック協力のもと、イーピーエス株式会社とともに、「患者さんと一緒に考えるこれからの治験〜分散型臨床試験で変わる治験参加体験〜」をテーマとした分散型臨床試験(DCT)ワークショップを開催しました。本ワークショップは、DCTへの患者さんの想いや考えを理解しDCTが患者さんの治験体験に与える影響を理解し、より参加しやすい治験の実現につなげていくことを目的としています。6名の患者さん(うち4名が治験参加経験者)をお招きし、DCTに関する貴重な意見を伺いました。
本イベントは、「聞いてみよう!」「触れてみよう!」「話してみよう!」「共有しよう!」の4つのセッションで構成されました。それぞれのセッションで、DCTの概要を理解し、実際にDCTツールを体験し、患者さんの声を深掘りしました。
聞いてみよう!:主催者からの治験およびDCTの概要とそのメリットの解説
触れてみよう!:eConsentやePROなどのデジタルツールを体験し、その利便性を確認
話してみよう!:患者さんの視点からDCTのメリットや改善点を議論
共有しよう!:セッションを振り返り、意見や成果を共有
COVID-19のパンデミックを契機に、治験の実施手法は大きく変わりました。これまで、治験参加には定期的な医療機関の来院が必要でしたが、感染拡大防止のため、物理的および心理的な制限が生じ、患者さんにとって大きな負担となっていました。このような背景から、デジタル技術を活用して、医療機関に来院せずに治験に参加できるDCTの導入が進められています。DCTの普及により、患者さんの「拘束時間の負担」や「通院の負担」が軽減されることが期待されており、患者さんのニーズに応える治験の手法であるかを検証する必要性が高まっています。
本ワークショップでは、特に患者さんからのDCTに対する意見を集約し、患者さんが求める要件と医薬品開発業界の考え方との間にあるギャップを明らかにし、その解消に向けた活発なディスカッションが行われました。以下に、6名の患者さんが参加した「話してみよう!」セッションでの主な議論内容を紹介します。
「話してみよう!」におけるDCTのメリットと要望に関する議論
DCTは通院負担や経済的負担を軽減する大きなメリットがあり、多くの患者さんから期待されています。一方で、対面診療やフォロー体制の強化、地域医療機関との連携の必要性も指摘されています。特に希少疾患治験では専門医との連携が重要視されており、ハイブリッド型治験の導入や緊急時対応の仕組み強化が求められています。以下に、議論の中で寄せられた患者さんの声を整理して紹介します。
▶通院時のあらゆる負担の軽減:
「片道3時間かけて通院し、前泊して検査を受ける必要がありました。DCTがあればもっと楽だったかもしれません。」
「体調が悪いときは家族に送ってもらう必要がありました。自宅で治療を受けられるようになれば家族の負担も減ると思います。」
「1日がかりの通院では交通費や食事代などの追加出費が発生しました。DCTでコストが抑えられるのは大きなメリットです。」
「選択肢としてDCTを利用できれば、わざわざ病院に行かなくてもよいのは大きな利点です。」
▶DCTの限界と対面診療の必要性:
「説明文書や同意書の確認をリモートでするのは不安です。対面で医師に診てもらいたいです。」
「高齢者には病院通いを望む方も多く、特に高齢者層にはDCTに対する不安があります。」
「治験が進む中で症状が安定してきた場合、医師との信頼関係が築けていれば、すべてを対面で行わなくてもよいのではないでしょうか。」
「海外ではビデオ面談が一般的と聞いています。日本でもオンライン診療が進む中で、対面診療を必要とする頻度を減らすことが可能かもしれません。」
▶地域医療機関との連携:
「検査を受けるために遠方の病院を訪れる代わりに、近くの医療機関で検査を受けられると便利だと思います。」
「自宅近くの医療機関で治験薬の投与を受けられるとありがたいです。」
▶希少疾患治験における課題:
「希少疾患の場合、専門外の医師に診てもらうのは不安です。専門医との連携が重要だと思います。」
「DCTと近隣の医療機関が連携し、医師間で患者情報を共有する仕組みを強化してほしいです。」
▶フォロー体制の不安:
「地方に住むと通院の負担が大きく、遠隔での受診が助かる場面もありますが、緊急時のフォロー体制が十分であるか不安です。」
全体として、DCTの導入は患者さんの負担軽減や選択肢の拡大に大きな可能性を示していますが、患者さんの安全性や安心感を担保するための仕組み作りが不可欠であり、特にハイブリッド型治験のニーズや地域医療との連携強化が課題として浮き彫りになりました。
eConsentで深まる理解、広がる治験参加の可能性
治験において重要なステップの一つとされるのが、インフォームドコンセント(説明と同意)です。従来の紙ベースの書類を用いて行う同意手続きでは、患者さんが内容を読む・聞くのみで進む形式が一般的でした。しかし、電子ツールであるeConsentを用いることで、タブレット端末やPCを使用して、病院だけでなく自宅からでも治験内容を確認できるようになります。さらに、動画による説明も取り入れることで、理解を深める機会を提供する仕組みが特徴ですが、これに関する患者さんの声をご紹介します。
「クイズや理解度チェックが非常に良い。理解が不十分な部分を補うのに役立つと思います。」
「紙ベースの資料では分かりづらく、内容を完全に理解できないまま進む不安があったが、eConsentはわかりやすく、安心できます。」
「動画による説明が分かりやすく、医師から説明を受ける前に概要を把握できました。」
「動画があることで情報が頭に入りやすく、理解が深まりました。」
「自宅で一度確認し、次回訪問時に疑問点を質問できる点がいいと思いました。」
患者さんからは、eConsentについて「わかりやすく安心できる」「動画やクイズで理解が深まる」といった声が寄せられました。また、「自宅で確認し疑問を解消できる」といった利便性も高く評価されており、治験への理解を助ける有効なツールであることが示されました。
患者と医療者をつなぐDCTツールの役割と可能性
DCTを構成する患者向けデジタルツールは治験中のデータ収集において重要な役割を果たしていますが、患者さんの治療体験をより包括的にサポートするため、特に副作用が発生した際に迅速かつ効果的に対応できる機能拡充への期待が寄せられました。双方向のコミュニケーション機能や、症状を視覚的に共有できる仕組みが求められており、これにより患者さんと医療者の間の情報伝達がさらに円滑になることが期待されています。
「治療日誌のアプリで毎日副作用の程度や症状を記録し、3週間ごとの診察で医師に報告していましたが、今回見たように、患者が入力した記録を医師が一覧で確認できる仕組みは問診時の手助けになると思いました。」
「緊急時の対応として双方向のコミュニケーション機能があると便利です。自宅からビデオ面談等を通じて医師やCRCとシームレスにコミュニケーションを取れることを知り安心しました。」
「皮疹が出た際、単に『かゆい』と伝えるだけでは不十分で、症状の写真を撮影し、ツールを介して送信できることは、問診時の説明がより容易になると思いました。」
患者さんからは、迅速で円滑な情報共有の仕組みの提供が、DCTツールの重要な役割として期待されています。特に、副作用や症状の変化をタイムリーに医療者に伝え、適切な対応が可能となる仕組みは、患者の安心感を高め、治療への信頼を深める大きな要因となります。加えて、双方向のコミュニケーションや視覚的なデータ共有は、患者さんと医療者の相互理解を深め、診療プロセスをより効率化することが可能です。DCTツールは単なるデータ収集の枠を超え、患者さんと医療者の信頼関係を支え、より包括的で質の高い治験体験を実現するための中核的な役割を担う存在となるでしょう。
患者さんのご意見を視覚的によりわかりやすく共有するためグラフィックレコーディングでまとめました。
作成者:グラフィックレコーダー 吉川観奈様
DCTの可能性と今後の取り組み
DCTは、患者さんの声を中心に据え、治験のあり方を根本から変革する力を持つ新たなステージです。本ワークショップでは、患者さんから直接寄せられた意見や体験を通じ、DCTがいかにして治験のハードルを下げ、患者さんの負担を軽減する手段となりうるかが浮き彫りになりました。身体的、経済的、そして心理的な負担を和らげる選択肢としてDCTが提供するのは、単なる効率化ではありません。それは、患者さんが自身の健康と向き合う際に、選択の自由を持てる環境を築くことです。真の患者中心の治験とは、患者さんに「選択肢」を与えることであり、DCTは、その一歩を支える希望の架け橋なのではないでしょうか。すべての関係者がこのビジョンを共有し、それぞれの役割を果たしつつ、同じ方向を目指すことで、DCTが持つ可能性を最大限に引き出すことができるのではないでしょうか。
しかし、一方でDCTがすべてを解決する万能薬ではないことも示されました。対面での会話、医師や看護師との信頼関係、そして人と人との心の通い合いといった要素は、どれほど先進的なテクノロジーによっても代替することのできない価値です。それでもなお、DCTの導入が生み出す新しい選択肢は、患者さんにとって計り知れない価値をもたらし、治験参加の利便性を大きく向上させることが期待されています。
DCTは患者、医療機関、治験依頼者のすべてに恩恵をもたらす変革の鍵です。効率的なデータ収集や柔軟な運営の実現は、新薬開発のスピードを加速し、患者さんに迅速に治療を届ける道を切り開きます。患者さんの声を取り入れ、治験の枠組みを共に進化させることによって、私たちは持続可能でインクルーシブな医療の未来を築き上げることができます。DCTを推進することが、治験がこれまで以上に温かく、希望に満ちた未来を提供する場所となり、すべての関係者が共に成長し、医療の進化を支える力強い基盤となると信じています。
■イーピーエス株式会社について(www.eps.co.jp)
イーピーエス株式会社は1991年に事業を開始し、治験やPMS※1を中心とした臨床試験および臨床研究を総合的に支援する CRO※2です。臨床試験を推進する機能のすべての入口となる「Trial GATE」というコンセプトに基づき、これまでの豊富な実績で培ったデータサイエンスの専門性とデジタル技術を生かし、顧客ニーズに応える新たなモデルを提案していきます。
■一般社団法人ピーペックについて(https://ppecc.jp/)
ピーペックは病気をもつ人や、そのご家族、患者会、さまざまな企業、地域のみなさんとつながり、「病気があっても大丈夫」と言える社会の実現をめざしています。病気をもつ人の“こえ”をあらゆる方法で集積・発信することで、新しい価値に変換し、「どうしようもある世の中」を叶えていきます。