Decentralized Trials(分散型臨床試験):COVID-19が臨床試験にもたらした変化

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2021-07-23

このブログはメディデータのグローバルコンプライアンス&ストラテジープリンシパル Fiona Mainiによって書かれた記事です。(Fionaは後述のACRO Decentralized Clinical Trials Working Partyの議長も務めています。)

COVID-19のパンデミックが、業界を問わず企業に多大な影響を与えたことは言うまでもありません。同様に、当然のことながらこのパンデミックが世界の臨床試験に与えた影響は顕著であり、臨床試験のバーチャル化、リモート化戦略をより強く後押ししました。

ここ数十年の歴史の変化やインターネットの影響を見ると、科学技術の進歩によって臨床試験のプロセスがどのように変化してきたかがわかります。私たちは、分散型臨床試験(DCT)の台頭や、COVID-19による遠隔地での臨床試験の実施に向けた行動の変化を目の当たりにしてきました。今後さらに業界が協力し合って、過去に戻ることなくバーチャル試験へのアプローチを進めていかなければなりません。そうすることで、患者の負担を軽減し、新たな治療法をより早く世に送り出すことができます。

臨床試験の起源

史上初の対照実験が記録されたのは、旧約聖書の「ダニエル書」に記された紀元前582年のことでした。この実験は、バビロンのネブカドネザル王が行ったもので、臨床試験のようなものでした。バビロンのネブカドネザル王は、国民に肉と酒だけを食べるように命じ、健康になるようにと考えましたが、何人かの男性が「野菜を食べたい」と反対しました。王は彼らに10日間、豆類と水の食事をすることを許可したところ、10日間が終わる頃には、肉食の人よりも菜食の人の方が栄養状態が良いように見えたので、王は10日間を超えて菜食を続けることを許可したのです。基本的な実験ではありましたが、医学的な実験が公衆衛生上の判断材料となったのは、人類史上初めてのことでした。

歴史上には、現在の状況に至るまでの重要な出来事がいくつかあります。1787年、ジェームズ・リンドという外科医が、英国海軍のHMSソールズベリー号で、初の無作為化臨床試験を開始したこともその1つです。ジェームズ・リンドは、12人の兵士を集めて6つのグループに分け、さまざまな治療法を施して壊血病の効果的な治療法を探りました。

1990年代に入ると、ICH(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use)とGCP(Good Clinical Practice)が制定され、WWWが登場し、スマートフォンが発売されました。2000年代半ばになると、ICH GCP R2の更新、EUの治験規制、新しい医療機器・体外診断規制など、臨床試験に関する国内外のさまざまな規制が次々と登場しました。米国では、新薬をより早く市場に投入することを目的とした「21世紀の治療法(21st Century Cures Act)」が施行されました。業界における直近の課題であるCOVID-19は現在も継続しています。

今日、ICH GCPは、今日の世界の科学技術の進歩に沿ったものにするため、徹底的な近代化と刷新を行っています。これまでのところ、ICH GCP R3は、データ管理、責任範囲、モニタリング、テクノロジーの利用などの分野に焦点を当て強調され、より時代に合った進化したものになっています。臨床研究のデジタルトランスフォーメーションの基礎を築くことを目指したものになっています。

何が変わったのか?ーインターネット革命
最近の臨床試験に影響を与えた最も大きな変化の一つは、インターネットです。携帯電話やコンピュータによって、私たちは複数の情報源から瞬時に情報にアクセスできるようになりました。COVID-19のパンデミック以前も、またパンデミック中も、人々は自分の症状や健康に関する情報をチェックするツールとしてウェブサイトを利用してきました。インターネットのおかげで、患者は他の患者の体験談や特定の病気や治療法についての情報を得ることができ、治療法の選択肢や、臨床試験に参加するかどうかを決めることができるようになっています。これにより、患者はこれまで以上に情報を得られるようになったことは言うまでもありません。

COVID-19によって加速されたインターネットとそれに続く医療のデジタル化によって、従来の臨床試験方法から分散型臨床試験(DCT)への移行が可能になりました。インターネットがなければ、このような進歩はあり得なかったでしょう。従来の臨床試験では、患者さんが会場に足を運ばなければならず、可能性のある患者の参加が妨げられ、患者さんにとって負担になってしまうことがありましたが、DCTでは、より患者を中心としたアプローチで臨床試験を進めることができます。DCTでは、遠隔地からの参加が可能であり、それによって阻害されてきた参加者の多様性を高め、患者の負担を軽減することができます。

実用的な観点ではどうなのか?
DCTにより、臨床試験に登録される患者数が増え、同時にその症例の地理的な範囲や多様性も広がりましたが、DCTの実施にあたってはいくつか考慮すべき点があります。

  • 人々の直接的な交流があること。これは依然として考慮すべき重要な原則です。患者にはコンタクトポイントが必要であり、登録された患者を指導するための現地でのサポートやインフラは不可欠です。適適切なレベルのサポートとインフラが整っていることがDCT成功の要因といえます。
  • 患者の臨床試験へ参加およびエンゲージメントが容易になるユーザーフレンドリーなものであること。
  • 遠隔医療やセントラルファーマシーのような統合された技術とサポートサービスを持つこと。
  • 患者が自由に選択できること。患者の選択は重要であり、DCTが成功するための基本原則であります。患者がどこで、いつ、試験に参加したいかを自由に選択できるようにすることです。

DCTの導入を阻害する要因を軽減
2019年、メディデータが主席を務めるDCTワーキンググループ(Decentralised Clinical Trials Working Party (DCT WP))が、Association of Clinical Research Organisations(ACRO)によって設立され、DCTの採用を妨げる障壁を調査し、このアプローチを使用することの利点を研究することになりました。ワーキンググループから得られた主なインサイトとして、ステークホルダーが臨床試験の近代化と変化に関して躊躇していることに対処する必要性と、エンドツーエンドのベストプラクティスを作成することでそれを解決できる可能性があることがわかりました。また、試験参加者の変更管理の負担を特定し、解決する必要があることも検討されました。これらの問題を解決する方法として、グループは「A Toolkit Dedicated to Decentralised Clinical Trials」と題した作業計画を作成しました。この作業計画は、問題解決のために作成された2つの文書で構成されています。

メディデータはACROがこのツールキットを発表したことに伴い、ACRO DCT WPについて説明したブログを掲載しています。

COVID-19のパンデミック:影響と規制面での考察
前述したように、パンデミックは業界を問わずほぼすべての企業に影響を与えました。ライフサイエンスとヘルスケアの業界を考えてみると、パンデミックにより、臨床試験に対する従来のアプローチに大きな限界があることが浮き彫りになりました。DCTについては以前からその重要性・必要性について語られていたものの、依然として業界内では躊躇されていましたが、パンデミックの際には、COVID-19が臨床試験にもたらす困難に対して新しい解決策を見つけなければならず、結果的にDCTにその利点を見出すことになりました。

特に、英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)と欧州医薬品庁(EMA)は、パンデミックの際に業界が直面する規制上の課題を解決する上で重要な役割を果たしました。規制当局は、迅速かつ実用的なアプローチで、遅延を最小限に抑えるためにギャップを埋めました。英国ではMHRAが規制の柔軟性について明確に示してくれています。他にも、米国食品医薬品局(FDA)やEMAも同様に業界をサポートしています。

2020年にはACRO DCT WP Quality-by-Designのマニュアルとリスクアセスメントが発表されました。これらは、COVID期間中に業界をサポートする上で非常にタイムリーなものでした。臨床試験チームは、これまでと異なるリモート戦略を展開しなければならず、その中でもDCTコンポーネントは、地域的なロックダウンや制限の中で臨床試験を継続するための効果的なソリューションとなりました。

今後について
COVID-19がもたらされた大きな挑戦であったにもかかわらず、今回のパンデミックは臨床試験への取り組みを前進させ、DCTへの道を加速させることの重要性を浮き彫りにしました。業界が一丸となって前例のないスピードでワクチンを提供したことで、DCTの導入が加速したといえます。DCTを提供するMedical Research Network社では、同社のサービスに対する需要が200%増加したことがわかっています。今後、業界は、DCTプロバイダーの技術的な資格認定ツールを統一的かつ標準的なアプローチで採用し、遠隔地での試験関連活動を行うためのテクノロジーへのアクセスと利用可能性を高めることに注力する必要があります。

 

この記事は2021年7月23日に公開されたGeeks Talk Clinicalでの英文投稿の抄訳となります。原文はこちらをご参照ください。

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